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コラム

完全風力図鑑

2015.05.27 ENERGYeyeコラム

 自然の風を利用して発電する風力発電。太陽光発電とともに期待度の高い再生可能エネルギーのひとつであるが、日本では導入が遅れている。果たして今後、日の目を浴びるのか。風力発電の最新事情を追った。

 

 風の力でブレードと呼ばれる羽が回り、タービンが回転して発電する。電気はタワーと呼ばれる胴体部分を通り、変圧器を介して送電線に流れる。風力発電の基本原理は明瞭で、端的にいえば風車に発電機をつけた装置である。

 19世紀後半、欧州で初めて開発された風力発電装置は、1基あたりの出力が数kW程度だったが、それがいまでは出力数千kWクラスのものまである。

 

 

 風力発電の心臓部のひとつが増速機だ。ブレードと発電機の間に設置され、回転力を高める役目を負っている。しかし、故障の原因になることも多く、最近は敢えて増速機を取り除いた装置もある。他にも、風速や風向によってブレードの角度や向きを変える可変ピッチやヨー駆動装置、台風や突風時に停止させるブレーキ装置なども重要な役目を担っている。総部品点数は1万点以上にものぼる。

 

 その風力発電は、いま世界的に普及している。火力発電や原子力発電のように燃料を必要とせず、温室効果ガスのCO2を一切排出しない。しかも太陽光発電よりも設備利用率が高いなどポテンシャルが高いからだろう。

 

 

 世界風力エネルギー協議会(GWEC)によると、風力発電の世界累計導入量は2014年時点で約370GWだった。これは原子力発電所約370基分に相当する規模だ。05年までの導入量は約60GWだったため、ここ10年で実に6倍以上に拡大したことになる。

 

 世界トップの導入国は中国。114GWで全体の31%を占めている。次いで米国の65GW。この両国で世界の約半分を占める。3位以降はドイツ、スペインと続き、トップ10にはイギリスやフランス、イタリアなどの欧州諸国がランクインしている。最近はインドやカナダ、ブラジルでも導入が進んでおり、世界的に普及し始めている。

 

 しかし、日本の風力発電の導入量は、14年末時点で約2.7GW。世界の導入規模の1%にも満たない。12年7月より固定価格買取り(FIT)制度が始まり、買取りの対象になったにも関わらず、風力発電の導入量はそれほど増えていない。太陽光発電がFITを機に劇的に普及しているのに、なぜ風力発電の導入が停滞しているのか。

 

 

 課題の、環境アセス

 風力発電の普及が進まない原因のひとつが、環境影響評価(環境アセスメント、以下環境アセス)だ。それが環境にどのような影響を及ぼすのかの評価を行う手続きのことで、もともと環境アセスの対象は、一定規模以上の水力発電所や火力発電所、原子力発電所などで、風力発電所は対象外だった。

 しかし、風力発電による騒音や動植物など生態系への影響のほか、景観や日照阻害(シャドーフリッカー)などの問題も取り沙汰されるようになり、12年10月から出力7.5MW以上の風力発電所が環境アセスの対象となった。これによって風力発電事業者は、4~5年にも及ぶ調査を実施しなければならず、その費用はもちろん自前。FIT制度が始まり、普及が進んだ太陽光発電とは対照的に、風力発電の導入は急減速したのである。市場では、環境アセスの迅速化を求める声が多い。

 世界各地で風力発電事業を手掛けるユーラスエナジーホールディングスの斎藤稔執行役員は、日本での環境アセスについて、「もう少し実績が出てくれば、必要なことと必要でないことがはっきりしてきて、調査にもメリハリがついてくるはず。4~5年かかっていたものが3~4年になるなど、迅速化につながる可能性はある」と語る。

 

 

 

 現在、日本では環境アセス中の風力発電プロジェクトがおよそ5.2GWある。ここ数年は風力発電の導入がそれほど増えてはい
ないが、水面下では着々と準備は進められている。

 数年後、これらの案件が稼働に至って、実績が増え、環境アセスの迅速化が進めば、日本でも中国や欧州並みとまではいかないまでも、飛躍的に風力発電の導入量が増えるかもしれない。

 しかし、導入量が増えるとまたひとつ新たな問題が浮かび上がってくる。すでに日本でも起こりつつある問題、それが適地の減少だ。

 

洋上風力のハードル

 風が強く、しかも安定的に吹き続ける。風力発電を設置するためには、なによりも重要となる条件だ。しかし、当然人気の場所は早い者勝ちで、徐々に適地は減少していく。特に日本のように国土面積の狭い国ではそのスピードは早い。

 そういった背景から、最近は洋上での風力発電が注目を浴びている。

 洋上風力は14年までに世界で約8.7GW以上導入されており、その9割以上が欧州で建設されている。特にイギリスが積極的で、約4.4GWと一国で世界導入量の半分を占めている。日本ではすでに約49MWの洋上風力が建設されているが、陸上風力と同じく普及が進んでいるとは言い難い。しかし、現在、千葉県銚子沖と福岡県北九州市沖では、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が実証試験を行っており、また福島県沖合では経済産業省の委託事業として丸紅などが世界最大規模の浮体式と呼ばれる洋上風力発電を建設中であるなど、少しずつだが動きが出始めている。

 ただ、実績が少ないためにハードルも高いようだ。先述の環境アセスの内容に関しても、その事業特性上、海域に生息する動物への影響や観光船やフェリー等の航路なども案件によっては評価対象となり、陸上とはまた異なる調査も必要となる。

 日本での洋上風力について、NEDO新エネルギー部風力・海洋グループの伊藤正治統括研究員は、「洋上での建設に際して、特殊船がないなど、日本ではまだインフラが整っていない。建設や稼働後のメンテナンスなどにも時間やコストがかかっているのが現状だ」と指摘する。

 現に、洋上風力は陸上風力に比べて、基礎工事や建設のコストが高く、総工費は陸上風力の1.5倍から2倍以上かかるケースもある。しかしメリットもあるようだ。伊藤氏は、「洋上は陸上に比べて風が強く、安定的に吹く場所に設置できるので発電効率が高い。輸送に関しても、陸上であれば道路の幅やトンネル高さの制限などで、風車の大きさに限界がある。だが、洋上は船さえあれば大型風車を運べ、出力を稼ぐことができる」と語る。

 また一般的に陸上風力の設備利用率は20%とされるが、「洋上実証試験の平均利用率は30%以上」(伊藤氏)という。洋上と陸上は甲乙つけがたく、それぞれに一長一短あるようだ。

 

 

 

 

カギはメンテナンス

 「風力発電装置は発電能力より稼働率が重要となる」。ユーラスエナジーホールディングスの斎藤執行役員はそう語る。理由について「日本にはまだ風力発電メーカーが少なく、海外製を使用するケースが多いため、修理や部品交換にも時間がかかる」という。

 当然だが、風車が故障して止まってしまうとその期間は発電しない。発電量を稼ぐ大型風車であれば、なおさら発電損失による損失は大きい。

 その対応として、斎藤氏は「壊れる前に部品交換などを行う予防保全や、定期的なメンテナンスに力を入れ、稼働率を上げる。稼働率を上げ安定操業すれば、事業性も高くなる」と語る。

 NEDOの伊藤氏も「風力発電は壊れた時のリスクが非常に高い。特に洋上風力の場合は現場に行くにも船が必要。波が高ければ近づくのさえ困難となる」と波浪状況によって、メンテナンス時期まで限定されてしまう難しさを語る。

 「洋上は特に塩害での被害が大きいので、発電機や増速機の冷却方法を空冷から水冷に変えたり、風力発電装置自体の気密性を高める」(伊藤氏)など、試行錯誤が続く。

 建設前に立ちはだかる環境アセス、さらに稼働後には厳重なメンテナンス体制を築かなければならない。風力発電事業のハードルは依然として高いが、エネルギー安全保障の観点からもその技術は重要だ。日本も環境アセスの迅速化に本腰を入れ始めただけに、普及が進むかもしれない。

 

ENERGYeye/エナジーアイの詳細はhttp://energyeye.jpまで

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  • 株式会社ウエストホールディングス

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