台風19号被害甚大示された分散電源の価値

2019.11.01

PVeye

 東日本を中心に猛威を振るった台風19号。数多の河川が氾濫し、住宅の浸水被害は5.3万棟を超えた。被災地へ入り、太陽光発電設備の被害と活用事例を追った。(本誌・飯渕一樹)

 10月12日夜、伊豆半島に上陸した台風19号は、東北、関東、中部の各地に甚大な被害をもたらし、堤防の決壊は7県71河川、135ヵ所に及んだ。21日14時現在の総務省消防庁の発表によれば、死者数が70人、全壊・半壊住宅数は1986棟にのぼり、住宅の浸水被害は5万3093棟と、昨年の西日本豪雨による被害を超えている。
 17日、千曲川が氾濫して広範囲に水没した長野市を訪れ、長野駅から国道18号線を北上した。次第に路上の赤土が目立ち、やがて沿道の泥土の量が一気に増すと、泥にヘドロや汚水が混ざっているのか、硫黄のような悪臭が鼻をつく。そう、ここは長野市豊野町、13日早朝に千曲川が決壊し、水没した地域だ。
 同町内の店舗兼自宅で夫とパン屋を営む沼倉美代子さんは、「13日午前6時頃に避難所から様子を見に自宅に戻った時、水嵩は20㎝程だったが、あっという間に増水した」と当時の状況を語る。結局、沼倉さん宅は1階がほぼ冠水し、パン生地発酵機や冷蔵庫などが壊れてしまったのだが、「店員が片づけを手伝ってくれたり、近所の人が励ましてくれたり、本当にありがたい」と沼倉さん。気丈にも笑みを浮かべて話すのだ。
 太陽光発電所の被害も多発した。静岡県伊東市では、斜面に設置されていた太陽光発電所が損傷し、作業員が飛散した太陽光パネルを回収していた。パネルや架台の桟と見られる金属材が積み上げられており、作業員は、「斜面の下側から風が吹き上げたらしい。辺りの樹木も倒れている」という。静岡県伊豆市では、華プランニング(静岡県長泉町、関富美江社長)が保有する太陽光発電所が台風による倒木でパネルが損傷。今回の台風によるものかは不明だが、地盤沈下も発生した様子だった。長野市内では、太陽光パネルまで冠水し泥に塗れた太陽光発電所が散見され、小屋や瓦礫を載せた発電所にも遭遇した。
 住宅用太陽光発電設備も水害には弱いのかもしれない。静岡県函南町在住で、リフォーム中の自宅が浸水したという女性は、集電箱への浸水で太陽光発電設備が使えなくなったという。PCS(パワーコンディショナ)こそ水に浸からなかったようだが、「自立運転用のコンセントが下部にあり、冠水した。停電ならばともかく水害では使えない」と嘆息する。

住宅用太陽光、各地で貢献

 ともあれ、長引く停電の下では、住宅用太陽光発電設備の貢献度は大きい。
 長野市豊野町の米木善登さんは、高台にある自宅が水害の難を免れたため、出力5.5kWの太陽光発電設備を活用した。「説明書を見ながら自立運転機能に切り替えた」と話す米木さん。13日朝から4日間続いた停電のなか、「携帯電話やバッテリー式の電灯を充電したほか、電力が急に落ちる恐れはあったが、パソコンも繋いで情報収集した」(米木さん)。
 台風15号と19号で立て続けに停電に見舞われた千葉県君津市でも太陽光発電設備が役立っていた。
 同市内に住む平松四男さん宅は、台風15号で2週間、19号で3日間停電が続いたが、平松さんは、「15号の時は、日中に太陽光発電を利用し、夜間は発電機を回して冷蔵庫などを動かした。不自由はしなかった」と当時を振り返る。台風19号の時に在宅していた娘の加奈子さんは、「東日本大震災の時に太陽光発電設備を使えなかったので、(自立運転の)やり方を調べてあって、今回は使うことができた」と話す。
 平松さん宅の近所に住む勝木紳一さんは、自宅の太陽光発電設備と蓄電容量7.2kWhの蓄電設備、さらに発電機を使用し、「日中は太陽光発電を、夜は蓄電設備と発電機を使って冷蔵庫の電源を確保した。台風15号の際は停電が2週間続いたが、食べ物を腐らせてしまうことはなかった」と笑顔で話す。
 一方、住宅が浸水しつつも、住宅太陽光発電設備が無事だった例もあった。
 静岡県函南町に住む岩倉すみさんは、自宅が床上浸水の被害を受けたが、水位は地上から1m弱にとどまり、室内に設定していたPCSが無事だった。
 長野市豊野町の廣田正徳さん宅は1階が1.6m程まで水没したが、1階の天井付近に据えつけていたPCSから配線に至るまで水に浸からなかった。廣田さんは、「いまは知人のアパートに寝泊まりしているので(太陽光発電設備は)使っていないが、今後生活を再建するなかで活用したい」と語った。
 水害のリスクも考慮すると、PCSをはじめ住宅用エネルギー設備は極力高い位置に設置する方がよいのかもしれない。

千葉・鋸南の山間部いまなお停電続く

 取材を進めると、台風15号の襲来した9月9日から1ヵ月半近く経ったいまも停電が続いている地域があった。房総半島の南部、千葉県鋸南町市井原地区の山間部だ。10月20日、土砂崩れの形跡の残る細い道を進むと、送電線が完全に寸断されていた。
 「この辺りに電気が来ていないことは完全に風化している」と憤るのは、断線現場の奥に住居を構える農家の森比佐之さんだ。森さんは、「東京電力は9月26日に発電機を持ってきてくれたが、それっきり。家の近くの電線にかかる枝を除去するにも東電に任せなければいけないが、再三連絡しても音沙汰がない」とし、今後は住宅用太陽光発電設備の導入を思案しているという。
 実際、東電は鋸南町の停電軒数を「-」と表示し、「ゼロ」とも「全面復旧」とも公表していないが、あたかも停電が解消したかのような印象を受けなくもない。
 いずれにせよ、現実には停電で不便を強いられる人がいまなお存在し、大手電力会社が築いた送配電インフラは完全ではないのだ。ならば、太陽光発電設備や蓄電設備などの分散型電源で補完すべきではないか。防災・減災の観点からも、分散型電源を普及させる意義は大きい。

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