西日本豪雨で露呈した太陽光の意外な弱点

2018.08.01

PVeye

 死者220人を超えた平成最悪の西日本豪雨。現地を訪れると、太陽光発電の意外な弱点が見えた。被災地のいまをルポする。(PVeye記者・飯渕一樹、平沢元嗣)

 燦燦と降り注ぐ日差しに青い稲田。夏の初めの心地よい田園風景が川ひとつ越えた途端一変した。小田川とその支流が氾濫し、水没した岡山県倉敷市真備町の一帯は、住宅も田畑も茶色に染まり、見るも無残な様子である。
 川の決壊は7月7日の未明に起こり、町内はたちまち増水。水深は最大で4.8mに達したのだ。記者が訪れた14日にはすでに水は引いていたが、強い日差しに照らされ、乾いた泥が土煙となって立ち込めていた。
 そんな劣悪な環境ゆえ、猛暑にも拘らずマスクと長袖服を着用した真備町在住の田村茂靖さん(46)。「早めに避難したので命は無事だったが、築3年目の自宅は可哀そうな状態。片づけてから今後のことを考える」と厳しい表情を浮かべる。
 京都府福知山市でも由良川支流が氾濫し、床上まで浸水した住宅は187棟にのぼった。農業と自動車整備業を兼業する大西正剛さん(25)は、倉庫が浸水し、「1台300万円もする米の乾燥機が水を被り、コンピュータが駄目になった。中に泥が入ってもう使えない」と嘆息する。
 福知山市は14年8月にも豪雨災害に見舞われ、住宅全壊13棟・床上浸水2000棟以上の被害を受けていた。それだけに大西さんは、「14年の災害より前は洪水が起こるようなことはなかった。ここ数年で立て続けに発生している」と話す。
 広島県安芸郡坂町は、特に被害が甚大な地域のひとつだ。21日16 時の時点で16人の死亡が確認されており、今も大勢の自衛隊員が派遣されている。地元に住む女性は、「6日の夜、家の前の道路が濁流に変わった。周りが暗く、避難しようにも怖くて外に出られなかった」と当時の恐怖を振り返る。雨は8日までに峠を越えたが、記者が訪れた15 日でも、まだ一部の路上を泥水が勢いよく流れていた。
 他方、6日から7日にかけて広範囲に冠水した福岡県飯塚市では、災害の痕跡は意外に目立たなかった。たばこ店を営む女性は、「水が引くと、すぐに市のゴミ収集車が隊列をつくってやってきた。おかげで路上が片づき、災害があったとは信じられないほど」と強調する。とはいえ、床上まで浸水した飯塚市役所頴田支所の周辺はうっすらと泥が被り、街中にはマットレスを干す家も見受けられた。

水に弱い太陽光

 ともあれ、災害時に役立つのが太陽光発電だ。停電が続いても、PCS(パワーコンディショナ)の自立運転機能が働き、限定的ながら電力を供給するため、東日本大震災や熊本地震の被災地では活躍した。では、今回はどうだったのか。
 被災地には、太陽発電設備を搭載した住宅がいくつも建っており、屋根上の太陽光パネルはきれいな姿だ。 だが、多くのPCSが水没し、機能を果たせずにいた。 被災地では、大勢が炎天下での作業に追われ、冷蔵庫 や扇風機が動くだけでも大きな助けになるのだが、水没したPCSは故障し、肝心な時に使えない。倉敷市内で太陽光発電設備の販売・施工を手掛けるひだかやの中山善継社長は、「地面から30㎝程のところに低く設置されているPCSもある。当社では180㎝前後の高さに設置しているのだが…」と話す。
 事実、ひだかやの顧客で、9.9kW の太陽光発電設備と蓄 電池を設置していた倉敷市 在住の小野浩さん(61)。7日の朝に自宅前の吉岡川が氾濫し、床下浸水に見舞われたが、軒下に高く設置されていたPCSはもちろん、蓄電池も無事だった。実は小野さんは7年前にも住宅が浸水しており、この冬に蓄電池のコンクリート基礎を70㎝余り嵩上げしていたのだ。
 むろん、住宅の2階まで浸水した真備町のような事態には太刀打ちできないが、今回の豪雨災害を契機に、PCSや蓄電池の設置に関して、改めるべきところがあるのではないだろうか。
 さらには、水没した太陽光発電設備の取り扱いについても、周知が必要だろう。絶縁不良の設備に近づくと感電の恐れがあり、短絡の生じている設備のブレーカーを迂闊に上げると、火災を誘発する危険性もある。すでに経済産業省やJPEA(太陽光発電協会)がホームページ上で被災者向けに注意を呼び掛けているが、販売・施工会社から顧客への働きかけも望まれる。

 傾斜地設置はリスキー !?

 今回の大豪雨では、各地で土砂災害が多発し、太陽光発電所にも被害が及んだ。
 兵庫県神戸市では、5日夜に山陽新幹線沿いの傾斜地に設置された23kW の太陽光発電所が崩落。安全確認のために、新幹線が一時運休する騒ぎになった。
 山間に小さな集落の散在する広島県東部では、数えきれないほど土砂崩れの跡に遭遇した。三原市大和町では、長さ100m程にわ たって生じた土砂崩れが、斜面下の低圧太陽光発電所を直撃。町内では際どいところで土砂災害から免れた太陽光発電所も見受けられた。
 昨今は太陽光発電所を傾斜地に建設する例が増えているが、今回の事故からも明らかなとおり、傾斜地は平地よりも災害リスクは大きい。建設場所を選定する際には慎重を期すべきだろう。
 中国経済産業局は、「停電からの復旧に向けた調査に力を注いでおり、太陽光発電所の被害報告の精査に手が回らない」というが、いまだに停電の続く地域が多いようだ。周囲の電力系統が停電している間は、当然ながら太陽光発電所のPCSが止まり、売電はできない。
 また、いちごエコエナジーが運営する呉市内の2.9MWの太陽光発電所は8日に稼働を止め、いまだに再開できていない。同社の説明によれば、遠隔監視で破損がないことは確認済みだが、交通網が遮断され、現地確認が取れず、運転を見合わせている。少なく見積もっても売電損失は300万円以上にのぼる模様だ。同様に設備自体に影響がなくとも、売電損失を被った事業者が多数存在するものと思われる。
 このほか、愛媛県大洲市にあるオムロンの委託工場が被災した。オムロンの担当者は現地の状況について調査中とし、PCSの生産は製造の中核を担うオムロン阿蘇や他の委託工場でカバーしているというが、PCSの供給に少なからず影響は出る模様だ。

助け合いで苦難を乗り越える

 取材を通じ、様々な人に出会った。福知山市で夫とともに雑貨店を営む福林曙實さん(79)は、「品物が水を被って駄目になった。もう泣きたいが、近所の人から励まされたり、助けられている」としみじみ語った。
 助けられる人もいれば、助ける人もいる。友人宅の後片づけに駆けつけた青年たち、崩れた近所の道に人が落ちないように柵を取りつける老人、自社の営業がままならないなか、道行く人に飲み物を配る京セラソ ーラーFC倉敷の社員たち。みな無私の人々である。
 苦難の時こそ人の強さが目に見えて表れる。それは疾風に勁草を知るとの諺にもあるが、真意は、疾風に勁草が育つのだ。人は生まれながらに強くはないが、苦難に打ちひしがれる人を前にして手をかさずにはいられない。だから強くなるのではないだろうか。逆境の中で強くなるのが人の本質ならば、被災地は必ずや再起を遂げるはずだ。

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