活況の蓄電所開発
手厚い補助金が牽引役に
長期脱炭素電源オークションに活路!?
今後を占ううえでは間もなく始まる長期脱炭素電源オークションの動向も鍵を握りそうだ。10月頃から事前登録が始まり、24年1月に初回入札が実施される予定で、蓄電池は放電時間3時間以上、出力10MW以上が対象となる。このオークションは容量市場の一種で、落札すると、事業者は20年に亘って固定費分の収入が得られるため、金融機関からの資金調達時に有利に働く可能性が高い。
ただし、入札価格に算入できる固定費や利潤などが細かく定められているうえ、他市場で得た収益の約9割を還付しなければならない。ある関係者は、「設定されている利益水準は決して高くはない。電力大手ならまだしも、一般の事業会社にとっては、低過ぎると判断されかねないレベルだ」と指摘すれば、別の事業者は「試算したところ、事業開始から7~8年で還付金の総額が20年間の支給総額を上回った。蓄電事業は運用が重要なだけに、(長期脱炭素電源オークションを活用すると)ハイリスクローリターンな事業になる」と慎重な姿勢を崩さない。
もっとも、長期脱炭素電源オークションは蓄電池が主役ではない。蓄電池は既設を含む揚水発電と同じ枠組みに入れられたうえ、初回募集容量4GWのうち、揚水発電と合わせた募集上限は1GWにとどまる。若干の空き枠が充てられる余地はあるが、「上限価格の設定も含めて非現実的だ」と嘆く声も聞こえてくる。
とはいえ、長期に亘って安定収入を得られる仕組みであるだけに一定程度の活用が進むはずだ。多くの事業者と商談を進める関係者は、「蓄電事業を真剣に考えている事業者のうち、約半分は長期脱炭素電源オークションの利用に前向きだ」という。
では、残りの半分はどうかというと、フルマーチャントでの事業化、つまり完全市場取引による蓄電事業を目指しているようだ。伊藤忠商事の道野統括も、「フルマーチャントで蓄電事業に参入する事業者も少なくない」と同意する。
「国がカーボンニュートラル(炭素中立)に向かうなかで、容量市場や需給調整市場、JEPX(日本卸電力取引所)などが全て同時に倒れる事態は想定し難い。多様な運用パターンを分析し、リスクを考慮しながら最適化を目指す運用が変幻自在に動けるかが問われるだろう」(道野統括)。
冒頭のパシフィコ・エナジーは蓄電所開発を継続しているが、補助金を活用しない形での事業化を模索している。マハディ部門長は、「すでに数十万kWh分の土地を確保しているが、最近公表された22年度補正予算の補助金は1件も申請していない。乗り越えるべき障害や不透明な部分はあるが、日本の脱炭素化に貢献するためにも補助金なしで大規模案件を実現したい」とし、「マーケットメカニズムや制度設計は蓄電事業の命。それによって成長度が決まる」とも述べる。
23年6月4日には関西電力管内で初めて再エネの出力抑制が実施され、東京電力以外の電力管内で出力抑制が始まった。再エネの導入を拡大していくうえでも蓄電所への期待は大きいが、未開設の需給調整市場があるうえに、出力抑制発生時の調整力確保の在り方など、関連する議論もまだ途上だ。運用が事業の鍵を握るだけに、こうした制度設計の行方は蓄電所、延いては再エネの将来を左右しかねない。国の本気度が試される。