忘るるなかれPID
発生リスクはゼロではない
かつて世間を騒がせた結晶系太陽光パネルの出力劣化、PID(=Potential Induced Degradation)。対策が進み、ほとんど聞かなくなったが、根絶したわけではなさそうだ。(本誌・楓崇志)
PIDとは、太陽光パネルの内部回路(セル部分)とフレームの間の電位差によって起こる出力劣化現象のこと。高温・高湿の環境下や、朝露などによってパネルの表面が濡れていると起こりやすい。2012年頃に話題となり、メーカーが対策を進めたが、実際に発生事例が報告されている。
太陽光発電所のパネル検査を行うエヌ・ピー・シーによると、検査した発電所125ヵ所のなかで半数以上の70ヵ所で不具合を発見し、検査ストリング6万4764本のうち、66本でPIDを検出したという。
PIDに詳しいケミトックスの坂本清彦副社長も、「我々も複数の発電所でPIDを確認した。稼働してから1年以内に見つかるケースも少なくない」と指摘。なかには、地絡検出用のブレーカが頻繁に落ちることがきっかけでPIDを見つけたこともあったようだ。
坂本副社長は、「パネルの漏れ電流が原因だったが、調べると出力も低下しており、PIDだった。降雨時や朝露が降りた時に頻発し、出力が落ちていれば、漏れ電流から発生するPIDを疑うべきだろう」という。
注意すべきは、PIDの対策を施したパネルだ。盲目的に信じてはいけない。というのも、〝PIDフリー〟パネルは珍しくないが、「モノによってバラつく可能性がある」(同)からだ。
一般にパネルのPID対策は、セル製造段階の反射防止膜の製膜時に行うようだが、坂本副社長は「そもそも反射防止膜は耐PIDを目的としていない。バラつきが小さくなるよう管理されていると思うが、全ての量産品で(PID対策の)品質をクリアするのは難しい。PID対策品でもPIDは起こり得る」という。
確かに、封止材との合わせ技でPID対策を施した製品や、EPC(設計・調達・建設)企業がシステム設計の段階で対策する場合もあるが、それでもPIDが起こり得るのだろう。
ただ、PIDを現場で見つけ出すのは容易ではなさそうだ。坂本副社長は、「影響が出るのはストリングの低電圧側で、出力が落ちたり戻ったりしながら徐々に劣化していく。開放電圧やI‒V測定で分かるレベルだと、進行している可能性が高い。現場でのPIDの判断は難しい」と語る。
最終的に不具合の原因をPIDと特定するには、疑わしいパネルを試験場に持ち込み、逆バイアスの回復試験を行う必要がある。その前段階の現場では、I‒Vやサーモグラフィだけでなく、EL装置を用いながら総合評価するしかない。
「低電圧側で発生しやすく、システム全体で起こり得るPIDは、ある程度の抜き取り検査で発見できるはず。I‒Vだけでは探しにくいので、ELも取った方がよい」(坂本副社長)。
事業者やO&M(管理・保守)企業には、不良パネルを交換しさえすればよいとの考えもあるようだが、PIDの場合、PID対策品と交換しなければ、再発の恐れがあるのだ。
また、蓄電池を併設すると、PIDが起こりやすくなるという噂もあるが、坂本副社長は「蓄電池を繋ぐといっても、基本的にオンオフの制御部があり、夜間に電圧はかからないはず」としたうえで、「もし電圧がかかり、PIDが発生したならば、そもそも該当パネルがPIDに弱いからではないか」と推測する。
買取り価格が引き下げられ、太陽光パネルに対するコスト要求は依然として強いだけに、PIDは起こり得る。PID対策を蔑ろにしてはいけない。