露見したエナリスの嘘と罪
粉飾決算が明らかになった新電力ベンチャーのエナリス。社長の池田元英氏(45)と会長の久保好孝氏(49)が辞任し、役員8名を減俸処分としたことでけじめをつけた。だが業界では取引を解消する動きも出ている。上場廃止の危機も迫るなか、どう信頼回復に繋げるのか。事の顛末をまとめた。
きっかけは2014年10月。あるウェブサイトへの投稿記事だった。「エナリスは実態のないテクノ・ラボという会社に約10億円の売掛金を抱えている。売上3.8億円の日本エネルギー建設という会社の株式を20億円で取得し、のれん代として20億円計上した」という不正会計を疑うもの。
これに対し、エナリスは、「テクノ・ラボは発電事業を計画し、当社の発電設備の購入を希望していたので、小切手を受領し、それを担保に10億円で販売した。だがテクノ・ラボの計画が実現性に乏しく代金が支払われなかったので、債権債務を解消し、その発電設備を金融機関に販売し取引は完了した」とし、日本エネルギー建設の買収も、「太陽光システムの販売・施工で急成長している。13年3月期は1期目で業績は小さかったが、14年3月期の売上は28億円。第三者機関の評価に基づき、妥当な金額で買収した」と自社のHP上で身の潔白を訴えた。
しかし疑惑は拭えず、11月20日、第三者調査委員会が設置され、調査を開始。12月12日に開示された報告書を受けて、エナリスは不正行為を認め、過年度の決算を訂正した。前期の売上高は101億円から86億円、純利益は4.2億円から1億円に下方修正し、のれんの減損などで今期第3四半期は22億円の赤字を計上した。
12月19日には、「責任の所在を明確にする」として、社長の池田氏と会長の久保氏が退任。代わりにグーグル日本法人元社長で社外取締役だった村上憲郎氏(67)が社長に就任した。
では、エナリスはどのような不正行為を働いたのか。報告書によると、先のテクノ・ラボとの取引は、取引が成立していないにも関わらず、売上に計上していた。その後、他社へ発電機を売却したときにテクノ・ラボとの取引による売上は取り消しているが、販売先が変更される過程で発電機3台が盗難に遭っており、その分を特別損失として計上していなかった。ずさんな会計管理の実態が浮かび上がってくる。
しかし、ずさんの域を超えるものもある。たとえば、テクノ・ラボとの取引の発端は、福島県の発電プロジェクトだったが、発電事業者との契約の際に、存在しない『エナリス・アセットマネジメント』という名義で締結している。「補助金の取得額が減少することを懸念した」としているが、だからといって架空の会社をデッチ上げていいわけがない。
エナリスの元社員は、「前々から池田社長は会計に甘いというか、できるだけ税金を払いたくないという考えが根本にあった」と批判する。エナリスと取引関係にあったEPC幹部は、「売上目標が高く、無理していたと思う。その一方で、グレーと思えるようなことを平気でやる怖さもあった。実際にグレーな取引を持ち掛けられたこともある。もちろん断ったが」という。
報告書によると、エナリスの疑惑の取引は、テクノ・ラボや日本エネルギー建設のほかに、太陽光発電所の転売など7件に及んだ。そして池田氏と久保氏がそのほとんどに関与しており、なかには、売上の水増しを狙って計画的に実行したと思えるものもある。
エナリスは12年6月、神奈川県の県有施設を利用した屋根貸し太陽光事業の事業者に選ばれた。専業子会社、『エナリス神奈川太陽光発電』を設立し、子会社と工事請負契約を結んで13施設分の太陽光の設置工事を受注した。このうち、エナリスは13年8月までに12件完成させ、工事代として総額4億8830万円を売上として計上した。しかしこれは親子間の取引で、売上高は相殺され、利益は生まれない。
そこで池田氏と久保氏は子会社を売却して収益をあげようと目論んだ。まず子会社の運営に必要な資金は匿名組合出資で用立てした。そして子会社を5億円以上で売却し、その譲渡先は代表取締役が決定するという議案を13年9月17日の取締役会にあげ、了承を取り付けてエナリス神奈川太陽光発電をCY社に譲渡した。
CY社はエナリスに譲渡代金として計4億9557万円支払ったが、その原資は久保氏が社長を務める2社から流れていたのだ。さらにCY社は先の取締役会の直前に設立された実態のない会社だったことが後で発覚する。
だが、エナリスはこの取引をもって、子会社のエナリス神奈川太陽光発電はCY社に渡り連結対象外になったとして、売上と利益を計上したのだ。