トクヤマ、マレーシアのポリシリコン工場売却
太陽光から完全撤退
日本の太陽光発電業界から主要企業が去った。経営再建中のトクヤマだ。9月下旬、同社は太陽電池原料のポリシリコンを生産するマレーシア工場を韓国OCIに約100億円で売却すると発表。事実上、太陽光発電からの撤退を決めた。
トクヤマは、苛性ソーダ、塩ビなどを生産する大手化学メーカーで、半導体用の超高純度ポリシリコンでは世界に名だたるメーカーだ。太陽電池向けのポリシリコンも、2007年頃までは、米ヘムロックセミコンダクター、独ワッカーケミー、米MEMCエレクトロニクス、米RECシリコンと肩を並べ、5大メーカーの1社に名を連ねていた。
07年頃から太陽電池向けポリシリコンの需要が急速に拡大したが、メーカーは増産リスクを懸念し、半導体向けに供給するポリシリコンの一部を太陽電池に供給する程度にとどめ、太陽電池向けポリシリコンの工場建設にはなかなか踏み切らなかった。ポリシリコンメーカーは半導体の需要サイクルと設備投資のタイミングが合わず、何度も辛酸をなめてきたからだ。
ただ、メーカーが増産を渋っていたために、やがてポリシリコンの市況が高騰。08年頃にはスポット価格が㎏あたり100米ドルを優に超え、一時は400米ドルまで暴騰する。そこで、大手メーカーは太陽電池メーカーやシリコンウエハメーカーなどとポリシリコンの長期契約を結んでリスクをヘッジし、増産に踏み切った。
しかし、慎重なトクヤマは出遅れ、結局太陽電池向け専用工場への投資を決めたのは09年に入ってからだった。この頃になると、ポリシリコンの市況も落ち着き、トクヤマは「マレーシアに関して長期契約はほとんど結べなかった」(トクヤマ広報部)のである。
それでもトクヤマは09年8月にマレーシア・サラワク州ビンツル市北東のサマラジュ工業団地に約200万㎡の敷地を確保し、工場の運営会社として100%子会社のトクヤママレーシアを設立。11年2月には約800億円投じて年産能力6200tの第1期プラントの工事を開始した。11年には年産能力1万3800tの第2期プラントの建設も決め、12年2月に着工している。第1期、第2期合わせて投資額は2100億円にのぼっており、まさに社運をかけた一大プロジェクトを敢行したのだ。
12年5月当時、幸後和壽社長は、「第1期プラントで生産したポリシリコンはn型単結晶シリコン向けに㎏単価40〜45米ドルで販売していく。第二期プラントでは、安価で競争力のある汎用型のポリシリコンを生産していく」と語っていた。
当時の幸後社長の読みでは、第1期プラントが稼働する13年時のポリシリコン相場は45米ドル、第2期プラントが稼働する14年でも同40米ドル程度で推移すると想定していた。
ところがこれは大誤算だった。工場が完成するまでにポリシリコンの市況が暴落。09年頃、長期契約の比較的安い取引価格でも㎏単価60米ドル程度だったものが、中国や韓国の新興メーカーによる相次ぐ増産によって供給量が急増。11年から価格が下落し、12年後半には20米ドル以下まで落ち込んだのである。
12年後半には第1期プラントを半導体向けに出荷すると方針を転換し、13年に完工。翌14年には第2期プラントも完成させたが、もはや投資回収の目途が立たなかった。
トクヤマは14年度に第1期プラントの減損などで653億円の最終赤字に。翌15年度は第2期プラントをほぼ全額減損処理し、1005億円の最終赤字に沈んだ。結局2100億円もの巨費をかけて建設したマレーシア工場を一度も本格稼働させないまま、わずか100億円でOCIに売却することになったのだ。