プレミアム買取り消滅か⁉
回避可能費用、16年度から電力卸価格に
「2016年度から回避可能費用は、2020年度までの5年間程度、激変緩和措置を取ることで、電力卸価格とする」。5月18日、経産省は回避可能費用の算定方法をめぐる議論に終止符をつけた。だが、算定法の見直しに、新電力やFIT電源開発者たちは〝遡及適応〟だと猛反発。不満はくすぶり続けている。
FIT電源からの玉だしが、石油やLNG火力など既存電源の稼働を回避させた結果、一般電力などが費やすはずだった燃料代などのコストをどれだけ削減できたのか。
いわゆる回避可能費用について、小売り全面自由化が始まる16年度から、卸電力価格(スポット市場と1時間前市場の加重平均)にすることがほぼ決まった。
この回避可能費用をめぐる問題の根っこにあるのが、買取り価格によって算定方法が違うという点だ。40円と36円は全電源の可変費用(燃料代などの運転費用)を採用しつつ、32円以降は火力電源の可変費用を使うというように、年代によって2つに分かれている。
しかも、16年度から電力卸価格になれば、回避可能費用の算定式が3階建てとなり、整合性が大きく崩れる。そこで浮上したのが、過去に遡及し、16年度からはどの年代ものも一律、電力卸価格にするという事務局案だった。
3月末の買取制度ワーキンググループでは、一律適用はさすがに遡及適応だと反対が多く、経過措置を取る方向で一致。そして迎えた5月18日、発送電分離の実施が予定された20年度までは、猶予期間を設けることが固まった。
ただ激変緩和措置と呼ばれる経過措置の対象は、あくまでFIT電源由来の電気を需要家に直接売る小売り事業者のみ。不当な裁定取引を封じ込めるため、日本卸電力取引所(JEPX)や他の小売りへの転売は対象外とされた。
なぜか。一般電力や新電力側からすれば、回避可能費用はFIT電源の仕入れコストに相当するもの。実際、32円でも一般電力の回避可能費用はkWhあたり7〜13円台、新電力なら約12円(15年4月時点)。しかし、JEPXでの取引量は小売り全電力量のわずか1.3%(14年度)と市場に厚みがないうえ、震災後の電力ひっ迫を受け、14年度のスポット平均価格は約15円と高値推移が続く。
こうした回避可能費用と市場価格の値差を狙った一部新電力が、JEPXにFIT電源を転売したことで、「1億円もの濡れ手に粟の利益を得た」と4月開催の参議院環境委員会でも取り沙汰されたほど。制度の歪みをついた不当な取引の是正しつつ、何を保護するか。
その前提となったのが、新電力の小売り契約だ。新電力の供給力、282億kWh(15年2月〜16年1月)に対し、FIT電源は9.9%と再エネ比率は上昇気味。再エネを売る新電力からすると、一切の経過措置なく、卸電力価格に連動されれば、増加した仕入れコストを販売価格に反映できず、経営リスクを負う。そのため「保護対象は、いまの回避可能費用=市場価格より安い仕入れを前提に、FIT電源を買取り、電力需要家と小売り契約を結んだ新電力など」と定められた。
とはいえ、まっとうな新電力とFIT電源開発者たちにすれば、とんだとばっちりだろう。太陽光発電で始まったFIT価格プラスαで買取る、プレミアム買取りが、今年度で消滅するかもしれない。そうなると影響は電源開発者にも及ぶ。新電力にプレミアム価格で買い取ってもらえる前提で、銀行融資を受けた発電所が少なからずあるためだ。
さらに、原発再稼働の動きを見ても、自由化後すぐに卸市場の厚みが増すとは到底言えず、卸電力価格の高値推移が続けば、新電力の参入障壁となる。ある大規模発電開発者は、「100MW単位で開発する我々にとって、回避可能費用が1円でも上がれば大幅減収に陥る」と猛反発するが、こうした声は届きそうにない。