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京セラ、3本バスバー電極巡りハンファを提訴

京セラは7月10日、韓国中堅財閥ハンファグループの日本法人ハンファQセルズジャパンに対し、太陽電池モジュールに関する特許権を侵害されたとして、東京地方裁判所に損害賠償を求める特許侵害訴訟を提起した。京セラによると、ハンファと交渉してきたが進展がみられず、やむなく訴訟提起に至ったという。京セラは、同様に特許侵害しているモジュールを扱う他の太陽電池メーカーや販売店、さらにユーザーに対しても、損害賠償や差し止めを求める特許侵害訴訟の提起を検討している。

京セラが特許侵害を受けたと主張しているのは、2012年3月に日本で取得した「3本バスバー電極構造」の特許権。バスバーとは、太陽電池セルで発電した電気を取り出す電極で、この本数を増やすと、電極の電気抵抗が低下し、一枚のセルから電気を効率よく取り出せる。従来はバスバーを2本設置するのが一般的だったが、これを3本に増やした3本バスバー電極構造が開発された。

ただ、単にバスバーを増やすと、セルの表面の受光面積は減り、発電量は低下してしまう。3本バスバー技術を有効利用するには、バスバーの幅や配置、あるいは、バスバーよりも細く交差する形で配置されるフィンガー電極の幅など設置の最適化を図る必要がある。

この技術を、京セラは独自に開発して、04年6月10日、特許を出願。特許庁の審査を経て、12年3月23日、特許番号『特許第4953562号』として正式に登録した。

だが、3本バスバー技術は、京セラ以外のメーカーも採用しており、生産量で見れば、「結晶系太陽電池の6割以上を占める」(業界関係者)ともいわれている一般化された技術だ。

そのことは京セラ自身も認めており、12年9月4日のニュースリリースでは、「3本バスバー電極は、現在、太陽電池市場で多くを占める結晶系太陽電池モジュールにおいて主流となっている電極構造」としている。にもかかわらず、京セラは「12年3月に当社が特許を取得した3本バスバー電極構造は、京セラの太陽電池セルにおける主要な技術。知的財産権を重要な経営資源と位置付けており、当社の知的財産権が侵害されたと判断した場合は、今後も毅然とした態度で臨んでいく」とし、その矛先をまずハンファQセルズジャパンに向けた。

京セラ広報部は、「特許を侵害しているとして1年以上前から交渉を続けてきたが、ライセンス契約締結等、交渉での解決が見込めないと判断し、損害賠償を求める訴訟を提起した」としており、ハンファQセルズジャパンを最初に訴えた理由については、「戦略上コメントできない」とした。

これに対してハンファQセルズジャパンは、「3本バスバー電極構造は、京セラの特許出願に先立って、遅くとも1990年代には研究論文等による公表されていた公知の技術であり、京セラの主張は一方的なものであると考えている」と反論している。

京セラは12年3月の特許取得以降、国内で製造もしくは販売された特許侵害しているモジュールを訴訟対象としており、今回、対象製品となったのは、ハンファソーラーワンが過去に製造していた一部製品。ハンファQセルズ製品は含まれていない。なお「対象となった製品は現在販売していない」(ハンファQセルズジャパン広報担当)という。

今後の裁判のポイントについて、特許問題に詳しいAK法律事務所の笠原基広弁護士は、「まず被告側の製品が特許を侵害するのか、しないのか。被告側がこの特許の無効性を主張した場合、特許が有効か無効かについても争うことになる。仮に侵害しているとなれば、損害額も争点となり、当該製品の出荷量、売上や利益等をもとに算出していくことになるだろう」とし、「これとは別の手続きとして、特許庁に対して、特許が無効であるという申し立てを行うこともできる。無効審判と呼ばれる手続きだが、こういった侵害訴訟では並行して申し立てることも多い」と述べる。

また、京セラは、同様に特許侵害しているモジュールを扱う他の太陽電池メーカーや販売店、さらに発電事業者に対しても、損害賠償や差し止めを求める特許侵害訴訟の提起を検討している。「特許権は、製造・販売だけでなく、使用等にもかかる。販売店も含めて、これを業として用いる発電会社も特許権侵害となる可能性はある。ただし、ビジネス上の関係もあるので、けん制という意味合いが強いのでは」(笠原弁護士)。

3本バスバー技術が、京セラの特許を侵害することになると、日本で販売する多くのメーカーは、京セラにロイヤリティ料を支払わなければならなくなるが、どう対処していくのか。「司法統計上、知的財産訴訟で判決が出るまでの平均は14ヶ月」(笠原弁護士)。今後の裁判の行方が注目される。

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