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環境省、先行地域の脱炭素進捗を公表

環境省管轄の脱炭素先行地域評価委員会は2024年8月、脱炭素先行地域の進捗状況を公表した。課題が山積するなか、計画を修正して脱炭素化を進めている地域もあった。(本誌・土屋賢太)

環境省は、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするため、先行して脱炭素化を進めるモデル地域に5年間で最大50億円の補助金を交付する『脱炭素先行地域づくり事業』を実施。25年度までに100地域を選ぶ想定で、これまで73地域を選定した。

脱炭素先行地域に採択された地域は、30年までに民生部門の脱炭素化を目指し、補助金を活用して再生可能エネルギー設備や省エネルギー設備を導入していくわけだが、計画通りに進まないケースもある。そこで、環境省は、脱炭素化の進捗状況を調査する『フォローアップ』の仕組みを設け、24年8月には『令和5年度フォローアップ』の結果を公表した。

これによると、23年度は全国で12.5MWの再エネ設備が設置され、再エネ導入量は同事業が始まった22年度からの累計で23.2MWに到達、29万tに及ぶ温室効果ガスの排出削減効果があった。このほか11地域で地域脱炭素の担い手となる地域新電力会社などが発足し、累計33.5億円のエネルギー代が地域内で循環していることが分かった。

ただ、「特定エリアの再エネ等の電力供給量」と「特定エリアの省エネによる電力削減量」の合算値を「特定エリアの民生部門の電力需要量」で除して求める「特定エリアの脱炭素化の進捗率」を地域別に見ると、計画通りに脱炭素化は進んでいない模様で、73地域のうち29地域が具体的な進捗率を公開していない。

これについて、エネルギー政策に詳しい一橋大学大学院経済学研究科の山下英俊准教授は、「潤沢な補助金があるうちはまだいいが、最長5年間の補助金が尽きた後、地域の特定エリアで実施した脱炭素化を地域全体へ展開していかなければならない。そこに向けての課題は多い」と指摘する。

ともあれ、計画を修正して課題を克服しつつある地域もある。

たとえば、北海道札幌市では、市内の民間施設群と公共施設群に太陽光発電設備と省エネ機器を導入する予定だったが、民間からは思うように合意が得られず、計画より導入量が大幅に減少しかねない状況だった。そこで市は、副市長が部局横断的に地域脱炭素を進める体制を築き、都心部の民間施設群の半分以上から合意を得ることに成功した。そのうえで、新たに環境エネルギー担当部長を配置し、積雪基準で太陽光パネルの屋根上設置が難しい公共施設群には壁面設置で検討するなどして状況を打開した。

秋田県大潟村は、未利用のもみ殻を活用したバイオマス熱供給事業で脱炭素化を進める計画だったが、事業の採算性が合わなかった。そこで事業者は地域金融機関と連携して計画を修正、24年7月には無事にもみ殻バイオマス熱供給施設を竣工したという。

脱炭素先行地域評価委員会の座長で政策研究大学院大学の竹ケ原啓介教授は、「脱炭素先行地域の事例は地域脱炭素の基盤になる。先行地域がどのような課題に直面し、どう克服したのか、明確になることが重要なのだ。脱炭素の方法を類型化できれば、横展開への可能性も見えてくる」と述べる。

脱炭素先行地域評価委員会は、24年秋頃に22年度に選定した45地域の中間評価をまとめる予定だ。引き続き状況を見守りたい。

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