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「原発を1基でも止めたい」農地のうえに太陽光パネルを搭載

タマリュウ栽培農家、小掠緑化代表 小掠三八氏

タデックが設計・調達・施工を行った発電所も、7月1日に竣工式を迎える予定。

3・11あの日を境に世界は変わった。終わらない福島第一原発事故、その後の電力喪失の体験が原発、あるいは電力源のあり方を我々に問う。

三重県菰野町でタマリュウと芝桜を生産する小掠緑化の小掠三八代表は、農地のうえに497kWのパネルを導入して太陽光発電事業を始める。小掠氏は導入背景を切々と語る。

「地震が起こり、津波が来て福島第一原発の事故が起こった。原子炉の冷却や住民避難、あるいは放射能汚染を防ぐために何かできないか」。

福島をチェルノブイリのような惨状にだけはしたくない。その一心で様々な働きかけを行ったという。だが、1年3ヶ月経ったいまも事故処理には終わりはみえない。

「私は原発反対でも、脱原発でもありません。ただ原発1基だけでも止めたいだけなのです」。何が違うのか。

「今のいままで我々は原発に頼ってきた。それを一切否定することはできず、否定できるものでもない。今日の今日、ゼロにすることは難しいが、1基でも良いから止めたい」。

その想いから「自分が使う電気ぐらい自分で発電する」と決断し、辿り着いたのが太陽光発電だった。すぐに行動に移し、昨年4月にはタデック(竹内政隆社長)と連絡を取る。

小掠氏が生産するタマリュウは、強陰地などの悪条件でも耐える常緑多年草だ。表情の乏しい地味な植物に思われがちだが、芝生などには最適で人気のある植栽である。

「タマリュウ栽培は11月から5月の連休まで日よけのために寒冷紗を被せて育てる」という。日よけのためにわざわざ黒い布を引き、85~90%の日差しを遮る。「太陽は四季に応じて経度が変わるが1日に1回、光があたれば良い」。

この特性を活かし、タマリュウ農地のうえに太陽光パネルを敷き詰め、発電しながら栽培する。小掠氏自ら考案した発電法だ。昨年7月には投資額1億数千万円の融資も地元の第三銀行が承諾。「私の無理からぬ想いから」、元請けにコスモ石油販売とそのグループ企業であるコスモリフォームが、先のタデックがSIを担い、農業用施設の設計、施工を手掛けるイシグロ農材の協力も得た。

タデックの竹内政隆社長は「小掠社長の信念に触れ、少しでも協力できればと思った」と振り返る。

三重県や菰野町への農地許可申請も終え、「農地発電では国内初となる」見込みで、7月1日の運転開始を目指す。だが小掠氏は「日を好む植物と好まない植物がある。田んぼのうえで太陽光の運用試験をやる企業もあるようですが、日光が不可欠な米のうえに太陽光を載せるとは」と疑問を呈す。

「食料自給率が低い日本で、農地や耕作放棄地などの農地転用には私は反対です。一度でも転用すれば微生物も死ぬ。私は農地を殺してはいない。農地を殺さず発電する。このシステムを開発し、津波の塩害を被った農家の方に提供する。これが最終到達点だ」と語った。

小掠氏の取り組みは注目を集め、見学者が後を絶たないという。ただ100人来たら100人とも口を揃えて聞くのが“儲かるのか”というその一点。42円、20年という数字が世に出てからだ。様々な企業や団体の見学を受けるにつれ、「まるで農地を使って悪いことをしているかのような疑念」にとらわれ、自問自答する日々が続くという。

しかし「原発を1基でも止め、生きる糧になるのなら、東北で塩害にあった農地で私のシステムを使って欲しい。それが私の生きた証しにもなるのではないでしょうか」。小掠氏は復興を願いそう語った。

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