太陽光めぐり

[静岡県]

土井酒造場

日本初の太陽光酒蔵

❶倉庫の切妻屋根の両面にシャープ製パネルが合計360枚並ぶ。PCS(パワーコンディショナ)は山洋電気製の30kW機を2台設置。❷土井清愰会長。すでに社長職を退いたものの、まだまだ現役だ。❸浄水槽のポンプは日中に稼働。夜間に不純物を沈殿させ、上澄みだけを排水する。❹土井酒造の銘酒「開運」。静岡の酒は飲みやすいとの定評に違わず、さらりとした飲み口に程よい酸味がアクセントを添える。

からりと晴れた冬の朝。刺すような冷気のなか、酒瓶のケースを満載したフォークリフトが駆けまわる。従業員が忙しげに出入りする建物のなかからは、日本酒の甘い香りが漂ってくる。

ここは年間400㎘の日本酒を生産する蔵元、土井酒造場。明治5年にこの地で創業した。酒蔵としては若手の部類だが、一部に明治・大正期の建物も残す作業場は年季を感じさせる。

だが、ふと倉庫の屋根を見上げると、目に飛び込んでくるのは100枚を超える太陽光パネル群だ。

「まあ、物好きなんだね」と話すのは同社の土井清愰会長。土井氏は2003年、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の助成を受けて出力60‌kW規模の太陽光発電設備を設置。当時調べた限りでは他に事例がなく、恐らく日本で初めて太陽光発電を始めた蔵元だろうという。取引のある機材商社の勧めで興味を持ったのがきっかけだ。

しかし、助成金の3000万円以外に自ら支払った費用は2500万円にのぼる。発電した電力を全て自家消費しており、電気料金が多少浮くとはいえ、単なる物好きの範疇ではない。

土井氏は、「環境に配慮した蔵元としての姿勢を対外的に示す良い機会と思って始めた」とし、「酒造業は地元に根ざして長く続く企業体でもある。地域の環境に良いことには率先して取り組みたい」と語る。

同じく環境配慮の意味合いから、作業場の裏手に廃水浄化槽も完備。大量に出る米のとぎ汁などを処理するためのものだ。微生物を活性化させるための攪拌装置は合計出力15‌kWの電動ポンプ2台で稼働する。むろんここにも太陽光発電の電力が使われている。

話を聞くうちに垣間見えてくるのは、土井氏の先駆者的側面だ。あるいは、本人の言に従えば〝物好き〟ぶりか。氏は静岡県工業技術センターと共同で洗米機を開発したり、最新の大型精米機を導入したり、機材の刷新に積極的だ。

企業としてはごく当たり前と思えるが、然にあらず。酒造業界では古い設備に修理を重ねて使い続けることが一般的で、昭和40年代の機械が現役という例さえある。精密な機材が少ないためだともいうが、やはり伝統を守ることを生業とする酒蔵の文化が根本にあるのだろう。

その点、「良いと思った物は新しく取り入れる」という土井氏は酒造界の異端児といった感もある。

しかし、氏は酒造場の経営について、「時代ごとに状況も変わるので、きちんと乗り切らないと先祖に申し訳ない」との思いを語る。数々の取組みも、世間の変化を越えて酒蔵を続けていこうと思えばこそだ。伝統を絶やすまいとする精神は、他の蔵元のそれと異なることなく息づいている。

ややもすれば常識はずれな、酒蔵と太陽光発電の組み合わせ。そんな日本初の試みから今年で15年。設備は現在もしっかり稼働しており、今日もまた酒蔵に明かりを灯し続けている。

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