太陽光住宅の新たな形⁉ 〝今まで通り〟の暮らしでオフグリッドを
神奈川県三浦市での実証100日突破
電力会社から電気を購入せず、自家発電だけで生活する〝オフグリッド住宅〟。全国各地で様々な実証が進むなか、神奈川県三浦市に建設されたオフグリッド住宅は一味違う。なぜなら、〝今まで通り〟の生活をしながらのオフグリッド住宅を目指しているからだ。
不動産業を営むバレッグス(東京都目黒区、大本朋由社長)が三浦半島の別荘地に建設したオフグリッド住宅。系統連系から完全に遮断し、自家発電だけで暮らすオフグリッド実証は、今年2月5日に始まり、5月15日には100日目を迎えた。
コンセプトは完全自立循環型住宅。屋根上には単結晶シリコン型太陽電池を搭載。壁面に設置された薄膜パネルを合わせた合計出力は35kWに及ぶ。リチウムイオン蓄電池の容量は72kWh、それらを繋ぐ双方向インバータの容量は20kWだ。
ふと気付くのが、設置容量の多さだろう。「1日の消費可能電力40kWhを想定した住宅だから」(建築事業部建築企画設計課の渡邉実課長)なのだが、一世帯当たりの平均的な電気使用量は月間で300kWh程度だ。
「一般的な家庭なら、1日の電気使用量は10〜15kWhでしょうね。ただ、この住宅は、電気をどんなに好きに使っても、太陽のエネルギーで全て賄える」(同)。
太陽電池や蓄電池容量が大きいため、居住者は省エネを気にする必要はない。発電がゼロでも、数日間なら蓄電池の残量だけで通常通り暮らせるだろう。ここが同社のオフグリッド住宅の最大の特徴だ。渡邉氏はこう説明する。
「我々は注文住宅なども手掛けているが、省エネ住宅の購入者に1年後のアンケートを取ると、実践できていないことも多い。ならば、従来通りに電気を使っても大丈夫な住宅をつくろうと。省エネを過度に気にせずとも、系統を遮断して太陽の光だけで普通に暮らせればいい。まずは24時間365日、何も変わらずに暮らせるかどうかを実証している」。
この2階建てのオフグリッド住宅には毎日ではないものの、同社代表の大本朋由氏が暮らす。社員研修などに活用することもあるという。電力消費するのは、LED照明やエアコン、電子レンジ、テレビ、冷蔵庫、パソコン、トイレなど。下水道が整備されていないため、浄化槽用ポンプの電気が必要なことくらいが標準的な住宅と違う点だろう。
実証開始から100日を超えたが、暮らしていくうえで大きな問題はないようだ。では、この住宅の経済性はいかほどか。渡邉氏は首を横に振る。
「例えば、蓄電池だけでも約3千万円。まったくビジネスにならない建物ですね。ただし、本当にこういう暮らしができるのならば、エネルギーに対する考え方も根本から変わるはず」。
同社は、今回の実証を、『チームオフグリッドプロジェクト』と名付け、チームメンバーを募る。現在までに50社以上が参加しているという。
「コンセプトとしては理想的だと思う。少ないとはいえ、現時点でも購入したいという人がいますから。普及してコストダウンが進めば、さらに実現に近づく。チームとして皆で協力していきたい」(同)。