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エネルギー基本計画案に見えた太陽光発電の確かな勝算

苦し紛れのコスト試算

見直し案では引き続き、原発依存度を可能な限り減らしていく方針を示したが、あくまでも「再エネが経済的に自立し脱炭素化した電源になった場合」と条件をつけた。換言すれば、再エネが経済的に自立しない限り、将来は原発に依存せざるを得ないというわけであって、原発推進の選択肢を残しておきたいのが本音だろう。それは今回の〝恣意的な〟コスト試算に滲み出ている。

経産省は、エネルギー政策において、脱炭素化を最大の目標に掲げ、30年の電源構成については、3E(安定供給・経済効率性の向上・環境への適合)+S(安全性)を原則とした。そのうえで、見直し案では原発を、「優れた安定供給性と効率性があり、運転コストが低廉で、変動も少なく、運転時には温室効果ガスの排出もない」と評価し、「重要なベースロード電源」と位置づけている。原発は少なくとも3Eの条理がかなった電源であるというわけだ。

しかし、果たしてそうか。特にコストに関しては疑問が残る。

経産省は、原発の発電コストをkWhあたり10.1円以上とし、石炭火力発電を12円、LNG火力発電を14円、太陽光発電は24円で、風力発電は22円と公表。原発は最も安い電源と言わんばかりだが、原発の10.1円以上の「以上」は事故リスクの対応費用によって変動する。振れ幅は、「事故廃炉・賠償費用等が1兆円増えると、発電コストが0.04円増える」というのが経産省の試算で、事故廃炉・賠償費用等を12.2兆円と見立てて原発の発電コスト10.1円を導き出している。

だが、すでに東京電力は原発処理費用が12兆円から22兆円に増えたと発表、民間シンクタンクの日本経済研究センターに至っては、福島の事故処理費用が50兆〜70兆円になると試算している。原発の発電コスト10.1円は、信憑性の薄いコストと断じざるを得ない。

その一方で、太陽光発電の発電コスト24円は実態よりもかなり高く算出されている。現在の発電コストは、直近の調達価格等算定委員会の算定根拠を用いるべきで、システム費kW22.1万円、土地造成費同0.4万円、接続費同1.35万円、運転維持費同0.5万円/年、設備利用率17.1%だから、20年間の総投資額は33.85万円だ。これを20年間の総発電量3万kWhで除すると、発電コストは11.3円/kWhとなる。ここに14年時点の政策経費3.3円を足しても15円だ。経産省が示した発電コストとは10円近い乖離がある。

現在、太陽光発電業界は30年に発電コスト7円/kWhを目指して技術開発を進めている。最近では新エネルギー・産業技術総合開発機構が、太陽光パネルの低コスト化に向けた実証事業の成果が従来の目標を上回っていることから、達成目標を5年前倒しにしたほどだ。

世界を見渡せば、太陽光発電設備のコスト低減は劇的に進展し、3年以内に太陽光パネルの製造原価をW20円台まで下げると明言するメーカーまで出てきた。30年時点で原発が安いとはとても言えない状況だ。

ただ、今回経産省がまとめた見直し案では、太陽光発電は変動電源であり、単独では脱炭素化した電源にはなり得ないという。それゆえ、50年のコスト試算は、脱炭素化に向けた「システムコスト」を検証していくべきとのことから、太陽光発電には蓄電池や水素エネルギーと組み合わせてコスト低減していくことを求めている。

しかし、気になるのは、そのシステムコストの議論で、経産省は原発を実用段階の脱炭素化した電源と見做し、単体でコスト試算していることだ。審議会委員の山内弘隆一橋大学教授は「原発のシステムコストが今のままでいいのか、事故が起きた場合の賠償費用など外部効果をどこまで入れるのかも含めて今後、議論すべきだ」と説明する。

仮にも原発のコスト優位性を認めるとしても、原発の最大の焦点は安全性だ。再稼働できる発電所は限られており、橘川教授は、「再稼働に向けていま手を挙げていないところは難しい。廃炉が決まったところと合わせて少なくとも30基は動かない」と目算する。

30年の目標を達成するには、30基程度の再稼働が必要だから、現時点でかなり厳しい状況だ。それだけに、橘川教授は、「本気で原発のことを考えるのであれば、一刻も早くリプレイスの議論をすべきだったのに、今回の審議会でも棚上げされた。現状ではどう考えても30年時点の原発比率は15%が限界。代わりに再エネが30%を目指さなければならない」と強調した。

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