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電力システム改革が、安価な再エネ電源を普及させる

東京大学社会科学研究所 松村敏弘 教授

回避可能原価が上がれば、国民利益のほうが大きい

ただし、回避可能原価が上がると再生可能電源を買い難くなるのは事実でしょう。仮に回避可能原価が5円なのに、過小に設定され2円になっていたとしましょう。するとこの電源を買取ると実質、3円得することになり、電源の奪い合いになる。奪い合いになれば、プレミアムをつけて新電力は買うことになる。

しかし、回避可能原価が上がりプレミアムを失えば、新電力にとって調達は難しくなるでしょう。しかし、そもそものフィードインタリフ(FIT)制度では、プレミアムがつく事態など想定していなかった。つまり、買取り価格が40円であるにも関わらず、43円で買取ってくれます、ということで普及させようという政策目的はなかったわけです。だから制度の不備、回避可能原価を異様に低く設定することで、生じた歪みが是正されるだけだと思っています。

もしこれで新電力の調達が難しくなるようなことがあれば、電力システム改革の文脈で調達を考えるべきです。FIT制度を歪めて無理やり、新電力に有利にするのは、そもそもの発想からしてスジが悪い。

ただFITと電力システム改革との相性は必ずしも良くない。だが、FITは基本的に短期的な政策です。短期とはいますぐに止めるという意味ではなく、2020年なり30年なり、遅くともいま導入された設備がリプレイスされる段階になったときには、FITがなくても自立できるようになっていて欲しい。

それに対して、電力システム改革とは国家百年の計です。時間軸がまったく違うわけです。強制的に買取らせている電力会社が、発送電分離によって姿を変えても、小売り事業者は存在します。実際にいま整理されているのは、この小売り事業者が買取るということですから、FITの制度設計ができないなんてことはあり得ない。

むしろ、出口戦略を考えたときに、FITが終わり、太陽光パネルが大量に導入されたとしても、リプレイスする頃には、シリコンの廃墟が大量にできただけで、まったく設備更新されないなんて事態になったら、本当に目を当てられませんから。

自立できるようにするための制度基盤として、システム改革を考えるほうが遥かに健全ではないか。

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