電力システム改革が、安価な再エネ電源を普及させる
東京大学社会科学研究所 松村敏弘 教授
毎年度の価格改定が空枠認定を助長させた
いま太陽光パネルを買って設置する人がいる。その結果として、量産効果や学習効果が働き、パネルや架台などのコストが下がる。典型的な外部性と呼ばれるもので、将来的なコスト削減を起こし、他人に利益を与えるような行動を何らかのかたちで後押ししなければ、購入行動が過小になってしまう。
時間を買うためにFITという強力な政策を取った。とはいえ、40円という買取り価格は高すぎた。大規模発電所を優遇するような価格が付いたことで非常にマズいことが起こってしまったと思っています。最初の価格が高すぎて、このまま何年もやられたら、とんでもない賦課金負担になってしまうという不安から、毎年改定に土壇場で変わったんだといまでも疑っています。
毎年改定されるとなれば、少しでも遅れると買取り価格がガクッと下がってしまう。1年なのか、1年2ヵ月なのかで決定的に違うため、とにかく早く設備認定枠を取ろうというインセンティブを強めてしまった。今回の空枠取りの問題は、毎年改定が唯一の原因だとは言わないし、最大の原因だとも言わないが、毎年、しかも相当急激に減額されるという予想があったから、あんな酷い状況になったのではないか。
買取り価格をもう少し低めに設定する代わりに、最初の3年間は据え置きにする。太陽光発電にとって、今年つけるのか、来年つけるのかという違いがクルーシャルだとは思えない。いまから反省するのであれば、もう少し低めの価格で安定的にやることを考えられないか。
認定制度の見直しにも関連しますが、時間を買う政策なので、枠だけ取ってパネル価格の下落を待つというのは、そもそもの主旨に大きく反するわけです。ただそれだけではなく、需要が殺到したのでパネルの納期が間に合わない事態まで起こった。量産効果や学習効果なりでコスト削減を果たすなら、注文に応じられないほど需要を押し上げたって無意味なんですよね。
だが、FITという強力な下駄を履かせてもらえなければ、再生可能エネルギーはテイクオフしない状況にまで追い込まれてしまっていた。
一般電気事業者というのは戦前から大規模な電源を遠隔地に建て、これを大送電線で運び、需要地近傍の小規模火力で補う。こういうビジネスモデルが完全に頭に染み付いていて、これに反するビジネスモデルに対して、ありとあらゆる局面で信じ難いような嫌がらせをして、普及を妨げてきたと思っています。
系統連系などが典型で、電力会社の義務ですよね。しかし、北海道電力管内ではつなげなくなってしまった。けれど、いまの送電網は相当に歪になっていて、なぜここを避けて線を引いたのか。大口の自家発電所を持っている企業が存在し、新規参入されたら敵わないから避けたとしか、私には説明できないような送電網が現実にあるわけです。
だが、送電網や連系可能量などは、そもそも機密情報でありアクセスできない。私たちが疑っても証明する術がない。電力会社が自社で小売り部門と送配電部門を同時にやる限り、この疑念は払拭できないわけです。だからシステム改革でネットワークの中立化をすることが、極めて重要なイシューとして出てきているわけです。
FITで時間を買っている間に、電力システムを抜本的に変え、再生可能エネルギーを自立させることが非常に重要なのです。
9電力会社の送電部門、その設備形成を担うのが15年度に設立される広域系統運用機関ですが、恐らく一般電気事業者は広域機関の弱体化に動くはず。これから揉めに揉めると思いますが、一番のポイントは人です。誰が事務局長なり、理事に就くのか。ここはまだまったく予断を許さないところだと思います。