過熱しない⁉ 卒FIT争奪戦
卒FITの太陽光発電設備を持つ世帯が登場して半年余り。当初は卒FIT設備由来の太陽光電力を巡る獲得競争が過熱すると思われたが、意外にも盛り上がっていない。(本誌・楓崇志)
2019年11月、FITの売電期間が満了を迎えた〝卒FIT〟の住宅用太陽光発電設備を持つ世帯が多数登場した。一時は卒FIT設備の余剰電力の取扱いが明確でなく、〝19年問題〟と取り沙汰されたが、大手電力10社が買取りを継続し、〝問題〟は解消した。
むしろ、卒FIT設備由来の太陽光電力に環境価値があることから、卒FIT設備の所有者との関係構築に様々な企業が乗り出した。スマートテックが18年6月末に卒FIT設備の太陽光電力の買取り受付を開始すると、ガスや石油元売りなどのエネルギー会社や、住宅メーカー、地域新電力会社が買取りなどの複合サービスを発表。参入企業は50社程に及ぶとみられる。
もっとも、卒FIT設備の所有者は、19年に53万世帯、20年20万世帯で、それ以降も毎年10万世帯以上現れる。20年6月30日にはスマートテックが買取り契約数1万件を突破するなど、実績もあがりつつある。だが、競争が激化しているわけではなさそうだ。
理由として、卒FIT設備の所有者に大手電力会社以外が接触しにくく、公平な競争環境ではないとの指摘もあるが、そもそも、買取り単価が電源の価値と見合っていないのである。
まず、太陽光発電の導入拡大で日中に電力が余り、市場価格が下落した。スポット単価でkWhあたり0.01円をつけることもある。つまり、0.01円で調達できるにも関わらず、先の企業は7円や10円で卒FIT設備の太陽光電力を買取っている。環境価値が加わるにしても値差は大きい。
しかも、卒FIT設備の所有者に対して企業がkWhあたり1円高く買取っても、設備所有者の年間売電収入にして数千円程の利益差に過ぎず、企業は競合他社との差別化を見出しにくい。それだけに、エネチェンジの有田一平社長は、「卒FIT設備の電力を買取る企業の多くが契約獲得に積極的ではない」と話す。同社は卒FIT設備の所有者に無料相談を行い、それぞれに適したサービスを紹介しているが、協業する企業は数社にとどまっているという。
さらに、有田社長は、「卒FIT設備は長期的に必要な電源だが、現時点で企業にとっての買取りの価値は限定的だ。蓄電設備の販売や電力小売りと合わせた複合サービスが中心になるのではないか」と想定する。
早くも19年末に卒FIT設備由来の太陽光電力の買取りから撤退した新電力会社もある。同社の担当者は、「FIT満了を迎えても、現行の電力会社との契約が自動継続される。一方で、10円以上で買取る企業も現れ、競争に勝てないと判断した」と明かすが、同様の動きが増えてもおかしくないだろう。