アメリカが中国に迫る アンチダンピング関税と上場廃止
米商務省がアンチダンピングに対する最終決定を下した10月10日、NYSE(ニューヨーク証券取引所)、あるいはナスダックに上場する中国銘柄は、驚くほど静かな値動きのなかで取引を終えていった。
翌11日、JAソーラーは「上場基準に抵触する恐れがある」として、ナスダックから上場廃止勧告を受ける。廃止勧告は今年に入ってダコ・ニューエナジー、サンテックパワーに続く3社目だ。世界を席巻した代償なのか。中国勢はいま株の流動性とともにコスト競争力すら失いかねない危機にある。
欧米と中国、この3大国間を巡るダンピング(不当廉売)紛争のひとつが終焉を迎えた。
米商務省が中国製太陽電池に対し、18.32%から最大249.96%もの税率でアンチダンピング関税を課すとの最終決定を下したのだ。5月の予備裁定と比べ税率は大きく変動。単独指名された2社のうち、サンテックパワーが31.22%から31.73%に引き上げられた一方、トリナソーラーは31.14%から18.32%へと最低税率に引き下げられる。
一方、カナディアン・ソーラーやインリー・グリーンエナジー、LDKソーラーなどの59社も31.18%から25.96%に減額。しかしその他の企業は5月の裁定通り249.96%が適用された。
さらに補助金相殺関税率も大幅な引き上げ対象となった。その税率はトリナが4.73%から15.97%に、サンテックパワーは2.9%から14.78%へと上昇。その他は一律15.24%が賦課される。
そもそも3月の補助金相殺関税の仮決定時、わずか2〜4%台だった税率を見て「補助金なんてなかったことを逆説的に証明している」といった意見すらあった。また不当廉売から国内産業を守るアンチダンピングに対し、反補助金措置は国の政策そのものに対し発動するもの。つまり、他国の政策に矛先が向かうため、両国間の対立が先鋭化する危険性を伴う。実際、中国はアメリカおよび韓国製ポリシリコンに対するダンピング調査を実施するなど、報復措置ともとれる行動を実行済みだ。
そのため政治的決着も予想されたが、最終的に商務省は補助金相殺に関しても一歩踏み込む結果となった。
これだけの課税措置である。まともに中国製セルを使って輸出すればコスト競争力など微塵もない。とは言え、彼らの選択肢もわずかしかないのが現実だ。溢れかえった生産能力。資金的余裕すらないいま、第3国への投資やM&Aなど論外だ。となれば方法は外買いしかない。
「台湾製のセル価格はいま青天井ですよ」。材料メーカーの担当者はこう語ったが、アンチダンピングの余波で台湾セルの価格が上昇しているという。その額およそ平均価格の1.2倍。だが中・台連携はモジュール価格の上昇。その引き金に過ぎず、結果として残るのはアメリカ市場の衰退だとする懸念は根強い。
その一方で、アメリカ市場そのものに疑問を抱く声もある。貿易不均衡の是正を図るほど多額の財政をつぎ込んだグリーン・ニューディール政策への批判が収まらないためだ。
最終判断を委ねられたITC(米国国際貿易委員会)の裁定が11月23日。その直前の6日が大統領選挙である。どちらが大統領になろうとも「太陽光発電に巨額の財政を投じ、雇用を生み出す政策転換は回避できない。アメリカでの普及は特定州だけ」との観測すらあるという。
何よりアメリカはいま空前のシェールガス革命下にある。太陽光などには見切りをつけ、シェールガスに舵を切る。市場の歪みはマーケットそのものを消失させる危険性すら持つ。