神戸市、勇み足の太陽光発電所規制

2018.10.01

PVeye

 西日本豪雨で太陽光発電所が崩落し、新幹線が運休したことを受け、神戸市は太陽光発電所の設置規制に動く。だが、発電所と土砂災害の因果関係は未確認のままだ。(PVeye記者・飯渕一樹)

 崩落した太陽光発電所は太陽光パネル出力23kWの地上設置型だった。神戸市須磨区の山陽新幹線沿いの、線路に向かって下る急斜面の上部に位置していた。気象庁の神戸観測所が
 24時間雨量200㎜以上を記録した7月5日の夜、太陽光発電所ごと斜面の土砂が崩落していることがJR西(西日本旅客鉄道)の点検で発覚した。線路内に部材や土砂は流入しなかったものの、大事を取ったJR西の判断で山陽新幹線は運航を停止。同夜から翌朝にかけて計9本が運休した。
 事態を重く見たのは神戸市だ。久元喜造市長は11日の定例会見で事故に言及し、条例制定も含めた規制を模索すると示唆した。8月22日の会見では、条例の制定を目指す旨を発表し、骨子案も公開。骨子には、一部例外を除く10kW以上の太陽光発電所の届け出義務化のほか、鉄道のような主要交通インフラや住宅地など、特定の場所に隣接した太陽光発電所の建設を規制する方針も掲げる。
 久元市長は会見で、太陽光発電に関して、施工や管理の不備、地元との諍い、開発による自然破壊などの問題への懸念があると指摘。そのうえで、「山陽新幹線が運休した一件が条例検討の引き金になった」と明言し、「太陽光パネルが原因となって、新幹線が不通になったことは由々しきことである」とも述べている。

根拠は薄弱

 ところが、実は太陽光発電所の存在が崩落を招いたという根拠は明確ではない。神戸市環境局環境貢献都市課の八木実環境計画・エネルギー政策担当課長は、「少なくとも太陽光パネルの乗っていた場所が崩落して公共交通機関を止めたことは事実で、何らかの対策が要る」と条例の必要性を強調しつつも、「事故後すぐに現場が整地されてしまったこともあり、施工方法に問題があったか否かは検証できていない。今後も検証を試みる予定はない」と話す。
 過去に太陽光発電設備が原因と認められる事故は同市内で報告されておらず、今回の事故についても、市民から苦情や条例制定を求める声は特段ないようだ。
 さらに、被害を受けたJR西東京広報室の杉本伸明課長は、「今回は異例の豪雨があった。太陽光発電自体の問題ではなく、家などが建っていても状況は同じだったのでは」とし、「事故現場の整地費用の負担を発電事業者と交渉中だが、運休による損害について事業者の責任を問うつもりはない」と語る。
 近年、確かに太陽光発電にまつわる揉め事や事故が世間の耳目を集めている。だが、条例の施行とは、行政機関が国民生活に規制をかける行為だ。しかも、骨子が掲げる交通インフラ沿いの建設規制に類する規定は、住宅などの施設にはなく、漠然とした根拠の下で太陽光発電設備だけを規制することになる。安易な条例制定は厳に慎むべきだ。
 崩落した太陽光発電所の施主兼発電事業者である別府工務店(兵庫県尼崎市、別府建一社長)は、一貫して本誌の取材に応じない。責任の有無はともあれ、災害の多発する昨今、同様の事態は他の発電所でも起こり得る。業界の糧とするためにも、広く事情を打ち明けることは、事故の当事者としての責務ではないだろうか。

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