[特別対談第15回]PVビジネスの大義 太陽光発電技術研究組合(PVTEC)桑野幸徳名誉顧問×ESI土肥宏吉社長
2017.07.01
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ヨーロッパ・ソーラー・イノベーションの土肥宏吉社長による特別対談。今回は、太陽光発電の技術開発から産業振興まで市場の礎を築いたPVTECの桑野幸徳名誉顧問をお迎えして、PVビジネスの大義を考える。
土肥氏●桑野さんは、世界で初めてアモルファスシリコン太陽電池の工業化を成し遂げられ、高効率太陽電池『HIT』を開発されました。偉大な研究者でありながら、2000年からの5年間は、旧三洋電機の社長に就かれ、経営の舵取りをされていらっしゃいます。
その一方で、電力会社と交渉して日本初の系統連系を実現されたり、政府と折衝して補助金を創設されたり、あるいはJPEA(太陽光発電協会)の前身である太陽光発電懇話会を結成されたりと、産業振興から市場形成まで太陽光発電業界の基盤をつくられました。
そこで今回は、桑野さんがどのような思いで太陽光発電と向き合ってこられたのか、お聞かせいただくことによって、PVビジネスの大義について考察できればと思っています。
桑野氏●最近は、FIT価格の減額や系統接続問題による経済的側面を挙げて、太陽光発電市場の衰退を予測する声が上がるようになりました。実際に撤退する企業も出ているようですが、そのような方々には本当の姿を見てほしいと思います。
日本では、太陽光発電設備が個人住宅に約200万件搭載され、出力10kW以上の太陽光発電所も含めると、稼動済みの設備容量は40GWに達する勢いです。40年以上前、私が太陽光発電の研究を進めていた頃は、1MWにも満たない規模でしたよ。
当時はコストも高かった。40年前の太陽光パネルのW単価は2万円でしたから、現在の500倍です。とても事業になるかどうかなど考えられる段階ではなかったのです。それでも太陽光発電に夢を託し、皆必死で開発していました。当時と比べると、今の環境は遥かに恵まれています。
土肥氏●桑野さんは、1979年にアモルファスシリコン太陽電池で世界初の工業生産方式を確立するという偉業を果たされましたが、そこに至るまでには、言葉では表せないような努力があったとお察します。しかしなぜ、当時、海の物とも山の物と分からない太陽電池の開発に、それほど必死になれたのでしょうか。
桑野氏●太陽光発電を何が何でも普及させなければならないという確固たる理由があったのです。国が太陽光発電に取り組んだのは73年のオイルショックがきっかけです。石油価格が4倍に高騰し、日本経済は疲弊してしまったので、エネルギー安全保障の観点から代替エネルギーを普及させなければならないとの考えが生まれ、74年にサンシャイン計画が発足しました。つまり、太陽光発電には大義があったのです。
土肥氏●その後、90年代には、環境問題が取り沙汰されるようになり、CO2を削減しようという動きが活発になります。そして2015年の『パリ協定』では、全196ヵ国がCO2排出削減に取り組む合意が形成されました。いまや太陽光発電には、エネルギー安全保障に加え、CO2削減という大義があります。桑野さんをはじめ、日本の太陽光発電市場を築かれた方々は、この大義があったからこそ太陽光発電の技術開発、産業振興に必死になって取り組まれたのでしょうね。
桑野氏●はい。太陽光発電の燃料は無尽蔵に降り注ぐ太陽光です。CO2排出はゼロだから、この太陽光発電を普及させれば、日本のエネルギー問題は解決します。それゆえ、半世紀近くもの間、国は太陽光発電を支援し続けてきたのです。
私は人類が安定してエネルギーを使い続けようとする限り、太陽光発電の大義は揺らぐことはないと信じています。だからこそ、導入速度が多少減速しても、私は太陽光発電の将来に対して全く悲観しないのです。100年以上に亘って安定した市場が形成されるに違いないと思っています。
土肥氏●私も同じ意見です。桑野さんのご努力のおかげで、技術革新が進み、いまや太陽光発電は競争力のある電源に成長しました。燃料費はゼロですから、間もなく、太陽光発電は最も安い電源になるでしょう。揺らぐことのない大義があり、かつ競争力のある電源を、国が、あるいは国民が、認めないわけがありません。
桑野氏●そのとおりです。それを踏まえて、皆さんPVビジネスに取り組んでほしいですね。事業である以上、アップダウンはあるでしょうが、将来に対して不安を抱きながら取り組むのではなく、太陽光発電の大義を胸にビジネスを進めてください。実際、FIT価格は下がったとはいえ、事業IRR(内部収益率)は5%も確保されているのです。他の投資商品と比べても、充分魅力があります。
そして今後は自家消費でしょう。日本には戸建て住宅が2700万戸ありますが、太陽光発電が設置されているのは200万戸です。仮に2700万戸の8割に太陽光発電設備を設置できれば、1戸あたり4kWとしても86GWになります。さらに66万棟の集合住宅や33・5万ヵ所の事業所のほか、公共施設や産業施設などにも導入できれば、計246GWもの潜在需要があるのです。
土肥氏●ドイツは1GWまで導入規模が落ち込みましたが、今年は2〜3GWまで増えるようで、そのほとんどが自家消費だそうです。日本で、FIT売電から自家消費へスムーズに移行できれば、マーケットはそれほど落ち込むことなく、健全な形で発展します。それを牽引できるのは、大義を抱いてPVビジネスに取り組む真のプロなのでしょうね。当社も心を新たにして事業に邁進していきます。今日はありがとうございました。
ヨーロッパ・ソーラー・イノベーション株式会社
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