産総研、結晶系太陽電池モジュールの耐PID技術開発 酸化チタン系複合金属化合物薄膜をコーティング

2013.05.22

PVeye

 独立行政法人産業技術総合研究所(中鉢良治理事長)の太陽光発電工学研究センター(仁木栄研究センター長)は5月22日、太陽電池モジュール信頼性評価連携研究体の増田淳連携研究体長、原浩二郎主任研究員がサスティナブル・テクノロジー(緒方四郎社長、STi)と酸化チタン系の複合金属化合物薄膜をガラス基板にコーティングして、PID(Potential-induced degradation)現象による結晶シリコン太陽電池の出力低下を抑制する技術を開発したと発表した。
 今回開発した技術は、STiの酸化チタン系複合金属化合物薄膜を太陽電池モジュールに用いられるガラス基板表面上にコーティングすることにより、PID現象の主原因とされるナトリウムイオンなどのガラス基板からの拡散を防止して、太陽電池モジュールの出力低下を抑制するもの。試作したPID対策済みモジュールに採用された酸化チタン系の複合金属化合物薄膜は、ガラス基板表面上(結晶シリコンセル側)に原料含む溶液をドクターブレード法によりコーティング。乾燥させた後、200~450℃で約15分間加熱焼成して製膜した。複合金属化合物薄膜をコーティングしたガラス基板、封止材のEVAフィルム、結晶シリコンセル、バックシートを重ね合わせ、真空ラミネートし、モジュールを作製している。
 実験では、標準型モジュールと対策済みモジュールそれぞれにおいて、PID試験前後の特性を評価。PID試験条件は、-1000V、85℃、2時間。薄膜をコーティングしていない標準型モジュールの変換効率は、PID試験後は15.9%から0.6%へと大幅に低下したのに対し、酸化チタン系複合金属化合物薄膜をコーティングしたガラス基板を用いた対策済みモジュールでは、PID試験による効率の低下はわずかなものに抑えられた。PIDの主な原因とされているガラスからのナトリウムイオンなどの拡散が、酸化チタン系複合金属化合物薄膜によりブロックされたため、PID現象による出力低下が抑制されたとみられるという。
 太陽電池モジュール信頼性評価連携研究体ではこれまで、太陽電池モジュールの信頼性・寿命を向上させ、発電コストを一層低減させるため、既存の太陽電池モジュールの劣化機構の解明、モジュールの信頼性向上のための部材やモジュール構造の開発、新たな評価技術の開発などを実施。その一環として、近年問題となっている太陽電池モジュールやシステムの信頼性を大幅に損なうPID現象のメカニズムの解明とその対策技術の開発にも取り組んでいた。一方、STiは、無機酸化物などをコーティングする技術を得意としている企業。酸化チタンをベースとする電荷形成酸化物薄膜をガラスなどの表面上にコーティングし、表面の汚れ防止や光の反射防止などに応用する技術は、他メーカーにも採用されている。そこで、ともに佐賀県に拠点を持つ産総研とSTiは、佐賀県の地場産業・技術を太陽電池モジュールの信頼性向上のために活用し、酸化物系の化合物薄膜を太陽電池モジュールのガラス基板上にコーティングによるPID対策技術の開発に着手していた。
  酸化チタン系複合金属化合物は、比較的低コストで製造できるうえ、簡易な製膜方法、低温焼成で製膜でき、使用量も少なくすむことから、低コストPID対策の有望な候補の一つ。産総研は、「今回開発した技術により結晶シリコン太陽電池モジュールの信頼性をさらに向上させ、今後、導入が加速すると予想されるメガソーラーなどの太陽光発電システムの長期信頼性の向上への貢献が期待される」コメントしている。
 今後は、酸化チタン系複合金属化合物薄膜の材質や膜厚、製膜条件等を最適化し、PID現象の抑制効果の向上とその実証を行い、より詳細なPID現象抑制メカニズムの解明、大面積モジュールでの実証試験など、早期実用化を目指していく方針だ。

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